2015年01月28日
遺言の撤回について
こんにちは。
スマイル相続センターです。
前回・前々回と遺言の種類や遺言作成で問題となる点などについてお話してきましたが、今回は、遺言の撤回についてお話ししたいと思います。
◆遺言の撤回①◆
遺言書を作成しても、その後、様々な事情の変更や考えが変わったことにより、やはり内容の全部を撤回したい、または一部を撤回したいというようなこともあると思います。
そのような時のために、民法1022条は、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と規定します。
この「遺言の方式に従って」というのは、法律に定められた方式に従っていれば、どのような方式でも構わないということなので、撤回する旨を記載する遺言の種類は問われません。例えば、公正証書遺言を、自筆証書遺言で撤回することも可能です。
また、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、民法1024条前段は、「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす」と規定していますので、作成した遺言書を破棄することで撤回したこととなります(もちろん遺言を作成して撤回することも可能です)。
これに対して、公正証書遺言は、遺言書の原本が公証役場に保管されていますので、遺言書を破棄して撤回することはできません。公正証書遺言の場合は、撤回する旨の遺言書を作成しなければ、全部または一部を撤回することはできません。
◆遺言の撤回②◆
民法1023条1項は、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と規定し、同2項は、「前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する」と規定します。この条文が適用されるのは、どのような場面でしょうか?
①1項の例
遺言者のAが、「Bに対してすべてのA所有の絵画を遺贈する」との遺言書(前の遺言)を作成したが、その後翻意して、「Cに対してすべてのA所有の絵画を遺贈する」との遺言書(後の遺言)を作成したような場合です。この場合は、前の遺言が後の遺言と抵触しますので、「Bに対してすべてのA所有の絵画を遺贈する」という部分は撤回したものとみなされます。
②2項の例
同じく遺言者のAが、「Bに対してすべてのA所有の絵画を遺贈する」との遺言書を作成したが、Aは、当該遺言書作成後、生前にCにすべてのA所有の絵画を贈与してしまったというような場合です。この場合には、AがBに対してA所有だった絵画を遺贈することはできず、遺言が遺言後の生前処分に抵触しますので、「Bに対してA所有の絵画を遺贈する」という部分は撤回したものとみなされます。
◆遺言の撤回の撤回をすると?◆
遺言を撤回したものの、最初の遺言を復活させたくなった場合に、撤回した遺言を撤回すれば効力は復活するのでしょうか?この点について、民法1025条は、「前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない」と規定しています。つまり、詐欺又は強迫という例外を除き、原則として遺言の撤回の撤回は最初の遺言の効力を復活させないということになっています(非復活主義)。
これは、最初の遺言を復活させると、遺言者の真意が不明になり、紛争を生じさせやすいことや、遺言の効力を復活させないで新たな遺言を作成させる方が遺言者の真意を明確にすることができるためです。
ただし、ここで注意すべき判例(最判平9・11・13)があります。当該判例の事案は、第1遺言を作成後、第2遺言により第1遺言を撤回し、新たな遺言内容を記載したが、さらに、第3遺言で第2遺言の訂正をし、第4遺言で、第2遺言で行った第1遺言の撤回を撤回し、第1遺言を復活させる旨の記載をしたというものです(ややこしいですが…)。
当該判例は、「遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法1025条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の意思を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当」として、第1遺言の復活を認めました。
もっとも、判例はこのような結論であっても、余計な紛争を生じさせないためにも、遺言を撤回した場合は、新たに遺言書を作成した方が適切かと思われます。
以上、遺言の撤回についてお話してきましたが、なにかご不明な点などございましたら、お気軽に当センターまでご相談ください。
皆様が笑顔でいられますように。
代表 長岡
ワンポイント
※参考文献
二宮周平『家族法 第3版』(新世社)