2016年11月22日
女性の再婚禁止期間②
こんにちは。
スマイル相続センターです。
今回は、前回の続きで、再婚禁止期間に関する重要判例(最判平27・12・16)の中身を見ていきたいと思います。
まず事実を整理しますと、原告Xは、前夫Aと2008年3月28日に離婚後、2008年10月7日にBと婚姻しました。離婚から再婚までの期間が6か月以上空いたのは、その当時は民法733条1項の規定により、180日の再婚禁止期間があったからです。
そこで、Xは、再婚禁止期間を設けることで、すぐに再婚できないことにより精神的損害を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき国に対して損害賠償請求をし、主に以下のような主張をしました。
①民法733条1項の規定の立法目的が父性の重複を防ぐことにあるとしても、DNA検査等で容易に父子関係を確定できることを考慮すれば、父を定めることを目的とする訴えの適用拡大をすれば足り、女性の婚姻の自由を制約してまで、あえて再婚禁止期間を設ける合理性はないこと、また、②父性の重複を回避する目的であれば、100日の再婚禁止期間で足りるから、少なくとも100日を超えて再婚禁止を設ける部分は、女性の婚姻の自由を過剰に制約するものであり、合理性がない(なぜ100日で足りるかは、前回のコラムをご参照ください)。
したがって、民法733条1項の規定は、合理的根拠なく女性を差別するものであり、憲法14条1項(法の下の平等)、24条2項(婚姻に関する両性の本質的平等など)に反し、本件規定を改正しなかった立法不作為は国家賠償法上1項1条の適用上違法の評価を受ける。
これだけ見ると難しく思うかもしれませんが、要するに、再婚禁止期間の規定は憲法の規定に違反していて、改正すべきであるのに、国会が法改正に着手しないという違法があり、これにより、精神的損害等を被ったので、国に対して損害賠償請求をするということです。
憲法違反だけ主張すればいいのに、損害賠償を請求するのはおかしいじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、日本の法制度上、ある法律等が憲法違反かどうかを判断するためだけに訴訟は提起できません。必ず損害賠償請求など具体的な事件として訴訟を提起し、それに付随して憲法判断がなされるものですので、そういうものだと思ってください。
さて、本題に入りまして、最高裁は上記の原告の主張に対してどのような結論を下したか、見ていきましょう。
民法733条1項が、「再婚をする際の要件に関し男女の区別をしていることにつき、そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり、かつ、その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において合理性を有するものであるかどうかという観点から憲法適合性の審査を行うのが相当である。」
733条1項の規定の「立法目的は、女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解するのが相当であり…、父子関係が早期に明確となることの重要性に鑑みると、このような立法目的には合理性を認めることができる。」
原告のDNA鑑定等により父子関係を確定できるとの主張に対しては、「父子関係の確定を科学的な判定に委ねることとする場合には、父性の推定が重複する期間内に生まれた子は、一定の裁判手続等を経るまで法律上の父が未定の子として取り扱わざるを得ず、その手続を経なければ法律上の父を確定できない状態に置かれることになる。生まれてくる子にとって、法律上の父を確定できない状態が一定期間継続することにより種々の影響が生じ得ることを考慮すれば、子の利益の観点から、上記のような法律上の父を確定するための裁判手続等を経るまでもなく、そもそも父性の推定が重複することを回避するための制度を維持することに合理性が認められるというべきである。」とします。
というわけで、立法目的は合理的な根拠があるとします。しかし、合憲であるというためには、さらに、区別の具体的内容が、立法目的との関連において合理性を有するものである必要があります。
では、次に立法目的との関連において合理性を有するかどうか、最高裁はどのような判断をしたか、確認してみましょう。
まず、再婚禁止期間の100日までの部分について、「女性の再婚後に生まれる子については、計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって、父性の推定の重複が回避されることになる。夫婦間の子が嫡出子となることは婚姻による重要な効果であるところ、嫡出子について出産の時期を起点とする明確で画一的な基準から父性を推定し、父子関係を早期に定めて子の身分関係の法的安定を図る仕組みが設けられた趣旨に鑑みれば、父性の推定の重複を避けるため上記の100日について一律に女性の再婚を制約することは…、上記立法目的との関連において合理性を有するものということができる。よって、本件規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は、憲法14条1項にも、憲法24条2項にも違反するものではない。」とします。
しかし、100日を超える部分については、民法起草当時(明治20年代)は医学が発達していないため、ある程度の期間を設けて懐胎したかどうかを判断する必要があったが、医学が発達した現代では、父性の重複しない期間まで再婚禁止期間を設けることは正当化できないこと、また、諸外国では、再婚禁止期間自体を撤廃している流れであること等を考慮し、「本件規定のうち100日超過部分が憲法24条2項にいう両性の本質的平等に立脚したものでなくなっていたことも明らかであり…、同部分は、憲法14条1項に違反するとともに、憲法24条2項にも違反するに至っていたというべきである。」としました。
結論として、判例は再婚禁止期間のうち、100日を超える分を憲法14条1項、24条2項違反としました。これにより、現在では法改正がなされ、再婚禁止期間は100日となっています。なお、国家賠償請求に関しては、国会が改正を怠ったと評価できないとのことで、認められませんでした。
難しい話になりましたが、この判例の結論ついてどう思ったでしょうか。再婚禁止期間自体不要と思う方もいれば、必要であるという方もいると思います。
ただ、判例が考慮したように、諸外国では、再婚禁止期間自体撤廃している国あります(ドイツやフランスなどが挙げられています)。ですから、父性の重複の防止という観点も重要なことではありますが、それが女性の婚姻の自由を制約する根拠として、合理的かどうかは、今後も検討の余地がありそうです。
長くなりましたが、今回はこの辺で。
皆様が笑顔でいられますように。
代表 長岡
ワンポイント
この判決では、2人の裁判官が再婚禁止期間自体を撤廃すべきであるとの意見を出しており、そのうちの1人は、国家賠償請求も認めるべきであるとしています。両意見とも、丁寧な検討がなされていますので、興味がある方は以下のページから、確認してみてください。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/547/085547_hanrei.pdf